「文昇問題 其の一」

無塩の段

 

 京都にある老舗の懐石料理屋へ、夫婦そろって、招待していただいた。
 そのお店は、享和元年(1801年)の創業で、現在の建物は国の登録有形文化財だ。その歴史ある建物に、1日に2組のみだそうだが、宿泊も出来るそうだ。
 そこで、「無塩料理の集い」があった。病院食は塩分控えめでおいしくない、とよく聞く。ならば、控えめどころか、塩を一切使わずに、おいしい料理を作れないかと、お店にとっては飛車と角落ちで勝負をする様なハードルの高い企画だ。塩を使わないということは、醤油や味噌もダメで、店の大将が言っていたが、香りやこくを出すのに、非常に苦労した、と。コースで出てくる料理の一品、一品、大将が説明をしてくれるのだが、随所に醤油や味噌、塩が使えたら、もっと楽に作れるのに、という空気が、ありありと出ていた。
 その手間暇かけたお料理を参加者全員、塩を使ってる使ってないを抜きにして、堪能した。 
 しかし、お店としては、この料理は、本来の実力を発揮できていないと思ったのだろう。各自のお膳の隅に置いていた店のパンフレットを見ると、その店特製の味噌とポン酢の宣伝が、大きく載っていた。


                                          <2013年 6月>