「文昇問題 其の一」

同級生だったの段

 

  私の本名は珍しい。父の出身の鹿児島ではともかく、近畿で電話帳に載っているのは、ほぼ親戚に間違いない。だから、「悪い事は出来ない」と、小さい時から叔父さん達に言われてきた。ありふれた名前でも悪い事はダメだ、と思うが。
  しかし、この珍名のおかげで、思いがけない出会いがあったりもする。先日、胸がむかつくので、病院へ行った。ひと通り診察をしてもらった後、その内科の先生がカルテと私の顔とを見比べて、「○○中学校じゃなかったですか?」と、訊いてきた。
  一緒の組にはなっていないが、同学年で私の名が珍しく、覚えていた、と言うのだ。それがわかり、私はちょっとタメ口になり、普通は診ていただいたお医者さんに、こんな事はしないが、独演会のチラシを取り出し、「今、こういう仕事をやってるねん」と言うと、同級生先生は、『桂文昇独演会』のチラシを見ながら、「へぇ〜、印刷業やってるんや!」と。
  一瞬落ち込んだが、気を取り直して、
「違うがな、この 桂文昇 って書いてるやろ、これが僕やがな」
「えっ、全然知らんかったわ!!」
  本名は有名でも、芸名はまだまだ無名だった。
                       
                                          <2013年 春の出来事>