「文昇問題 其の一」

マイブームの段

 

  ゴキブリが嫌いだ。特に、自宅に出没するゴキブリが大嫌いだ。これほど嫌いになったのは、私が幼少のみぎりの事だった。畳の上で寝そべっていた時、そこにゴキブリが現れ、父の攻撃をかわす為、寝ていた私の服の袖口から侵入してきたのだ。それがトラウマとなり、今まで触れていた他の昆虫も苦手になった。カブトムシの雌などは、裏向きになると、非常に似ているので、嫌いだ。
  私の誕生日に、息子がプレゼントをくれた。包みを開けると、漫画本『ワンピース』50冊。11巻と12巻の間から、奴が顔を覗かせていた。これは、ゴム製のゴキブリだったが、驚かされた私は、復讐をした。玄関のノブに貼り付けたのだ。ターゲットの息子より先に帰ってきた娘が、玄関で悲鳴を上げた。身代わりで引っ掛かった娘は、ゴム製の奴を今度は電話に貼り付けた。電話を掛けようとした妻が、腰を抜かす。翌日、トイレの電気を点けようとした息子が、大声を発し、次はPCに乗っかる奴に私がびっくりした。今、引っ掛かった者が、次に奴を仕掛けるのが、我が家で流行っている。先日、仕事で北海道へ行ったのだが、スーツケースの中に奴がいた。ついに飛行機に乗って雪国に上陸したのだ。
  この間、風呂から上がってきたら、奴がいた。また、誰かが仕掛けたな、と思っていたら、ほんまもんのゴキブリだった。新聞紙を丸めて、準備をしたが、なかなか叩けず、逃げられてしまった。ゴム製で免疫が出来ているかと思ったが、全然ダメだった。このまま寝ようとした時、また現れた。今度こそと、意を決し、念仏を唱えて振り下ろした。成仏させてしまった。発見してから、1時間を費やしていた。せっかく風呂に入ったのに、汗だくになった。
  ちなみに、現在、ゴム製の奴が行方不明だ。家族の誰かが居場所を知っているはずだが、皆しらを切っている。家で、気が休まらない日々が続く。

                       
                                        <2014年 11月>